コンサルに勤めている方ならよくご存知だと思いますが、多くの企業は「ビジネスフレームワーク」を活用して戦略を立案しています。
コンサルでなくとも、企業の事業企画など戦略立案に関わる職種であれば主要なフレームワークは「常識」として知っていないと、話についていけない場合があります。営業の方にとっても、自分の会社がどういう戦略を描いた結果として自分にタスクが下りてきているのかを知っておくと、すんなりとコミットすることができるので、ぜひ知識として備えておきましょう。
目次
ビジネスフレームワークの役割
まず、ビジネスフレームワークには様々な種類がありますが、それぞれにはそれぞれが使われる理由・目的があります。大まかに分類すると
- 自社の現状を分析する
- 戦略を設計・実行する
といった目的によってそれぞれは活用されているといえます。ここからは各フレームワークの前提となる「ロジカルシンキング」に関するフレームワークについて説明したのちに、上記の分類に沿って説明を進めます。
ロジカルシンキングフレームワーク
各フレームワークの説明に入る前に、大前提となる「ロジカルシンキング」のフレームワークを説明いたしますね。ロジカルシンキングは論理的思考力…という風にもよく言われますが、ビジネスをする上で最も重要なソフトスキルの一つといっていいです。
ビジネスフレームワークはどれも、物事を「分解して」「整理して」捉えるための手段です。ただ、ビジネスマンの中にはこの分解・整理をする思考の癖がない方もおり、そういった方にとってはビジネスフレームワークを暗記しても使いこなすことはできません。
MECE
MEDEはいわゆる「抜け漏れなく」物事を分類する概念のことをあわらします。分類したそれぞれの要素にかぶりがあってもいけませんし、ふ組み込むことのできない要素があってもいけません。
例えば、「『人間』をMECEで分類する軸は?」と問われたら、下記のような答えが考えられます。
- 性別
- 人種
- 年齢
などなど。MECEの概念を意識した上で物事を捉えることで、続くフレームワーク「ロジックツリー」を使いこなすことができるようになります。
ロジックツリー
ロジックツリーは物事を要素ごとに分解していくことで、本質的な課題や価値などがどこにあるのかをはっきりさせられるフレームワークです。このフレームワークはとてもとても大事なので、とにかく日常的に意識して物事を整理する癖をつけるようにしましょう。
ロジックツリーの例として「吉野家の1日の売上をあげる」というお題を考えてみましょう (コンサルの就職試験みたいですが、ご容赦ください)。
売上を上げる施策を考えるにはまず、売上の構成要素を分解・整理する必要があります。分解の仕方は妥当性さえあればなんでも良いと思いますが、上記の例だと「客数」×「一人当たり注文単価」を分解のスタートにしています。例えば「一人当たり注文数」が現状他の牛丼チェーンよりも低いコトがわかったら、そこを改善する施策(=サイドメニューの充実・頼みやすくする…など)を打つことができます。
ロジックツリーと KGI/KPI
企業でよく使われるKGI(Key Goal Indicator )とKPI(Key Performance Indicator)はそれぞれ「目指すべき目標」です。KGIが最上位の目標で、KPIがKGIを達成する為に設定された中間目標ですね。
先ほどの吉野家の例だと、上で作ったようなロジックツリーを考えた上で「どの要素を特に注力するのか」を決めます。KGIを「1日の売上」においたとしたら、KPIを「一人あたりの注文数」にあててもよいですし、「持ち帰り客数の増加」にあててもよいです。どの要素をKPIに設定するかで取り組みも変わることは想像しやすいかと思いますが、大前提、ロジックツリーの組み立てを最初に行っておかないとKGI・KPIの設定はできません(できたとしても機能しません)。
「自分は論理的思考が苦手だ…。」と思っている方は、普段から物事をより細かい要素に分類する癖をつけて「ロジックツリー思考」に慣れるようにしましょう。
自社の現状を分析する
ここでは、自社の現状を分析するためのビジネスフレームワークを紹介します。粒度の荒いもの・細かいものそれぞれありますが、状況に合わせて各フレームワークを活用してみましょう。
あくまでフレームワークは「手段」でしかありませんから、全てにおいてフレームワークに無理に当てはめようとはせずに、上手に活用しましょう。
3C分析
3C分析は「自社(Company)」「競合(Competitor)」「市場(Customer)」の観点から現状の経営環境を分析するフレームワークです。
現状分析のフレームワークは企業の内部環境を整理するもの・外部環境を整理するものなどこの後いろいろ紹介しますが、3C分析はまず「ざっくりと」企業の内部・外部環境を整理するのに便利です。なので、まず自社の今後の戦略を考えよう、となった時には3C分析で大まかに状況を整理、より細かい分析にあたって他のビジネスフレームワークを活用…という流れで進めればいいと思います。
Webサービスの3C分析
どんな分析もそうですが、使うデータは「正しい」ものでないといけません。しかし上場企業であれば決算などで情報が集めやすいものの、競合Webサービスの情報は精緻には出まわりにくいものですし、市場の情報も既存のネットに出回っているデータだけだと使い勝手が悪かったりします。
ただ、最近ですとWeb系の分析ツールも便利なものが多く、Webサービスの流入分析であれば「SimilarWeb」といったサービスもありますし、Webにおける市場の動向は「キーワードプランナー」や「Googleトレンド」などのサービスによって大まかにつかむコトができます。
ビジネスフレームワークは「大企業の分析」にばかり使えるわけではなく、Webのツールを使いこなせばWebサービスの分析にも応用できるので、Webサービスの企画・開発に関わっている方も知っておいて損はないでしょう、
PEST分析
PEST分析はコトラー氏によって考えられた、企業の「外部環境」を分析する為のフレームワークです。PESTの各文字はそれぞれ
- P = Politics(政治)
- E = Economics(経済)
- S = Social(社会)
- T = Technology(技術)
となっています。事業を進める上で外部環境 = 世の流れは大きな意味を持ちます。例えば「Politics(政治)」でいうと、サントリー・キリンといった酒造会社にとっては酒税法に関しては何よりも気になるところですし、もっと大きなところでいうと「消費税増税」はほとんどの企業に影響を与えます。実際僕が関わった売上計画の策定では、増税の影響を加味して売上の前年伸び率を下方修正を行っていました ()。
PEST分析は、それぞれの事象がどう自社に影響を与えるか、を考える為のものです。なので、そもそも今どういった事象が起きているのかを知らないといけませんので、新聞やニュースなどで毎日情報を仕入れておくようにしましょう。日経新聞のような王道の情報収集でも良いですし、Newspicksを通勤時間に見る癖をつけてもいいかもしれませんね。
増税になったらそれだけで数億円レベルで売上・利益に影響がでるので、事業計画の策定に携わる身にとっては戦々恐々です。。
VRIO
VRIO分析は自社の「経営資源」の競争優位性を測る為のフレームワークになります。経営資源はざっくりと「ヒト・モノ・カネ」でわけられることもありますが、ここでは「ヒト=人材」や、「モノ=設備・商品」などをイメージしてもらうとわかりやすいでしょう。
VRIOはそれぞれ
- V = Value(経済価値)
- R = Rarity(希少性)
- I = Imitability (模倣困難性)
- O = Organization (組織)
を意味しており、分析にあたってはそれぞれを企業の各経営資源に照らし合わせて検証していきます。
例えばリクルートなどだと、商材そのもの (広告媒体)でいうと模倣困難性や希少性はそれほど高くないかもしれませんが、人・組織文化といった部分はかなり独特のものがあります。ですので、その希少性・模倣困難性・組織という経営資源に関しては大きな競争優位を占めているといえます。
[vSWOT分析
SWOT分析は、自社の「外部環境」「内部環境」それぞれを分析する為のフレームワークです。
SWOTはそれぞれ
- S = Strength(強み)
- W = Weakness(弱み)
- O = Opportunity(機会)
- T = Thread(脅威)
を意味しています。「強み」「弱み」が内部環境で「機会」「脅威」が外部環境への分析になります。
各要素を上のように一元的に並べることで自社の現状をわかりやすく整理でき、その後の戦略設計の妥当性も高いものとすることができます。
ファイブフォース分析
ファイブフォース分析に関しては、まず図を見てもらうのが一番わかりやすいでしょう。
見ての通り、ファイブフォース分析は特定の業界における「脅威(競争要因)」を分析する為のフレームワークとなります。いかに競合に対し競争優位を維持し続けるか、また関係する会社に対しての交渉力を担保するかは、どんな会社にとっても頭痛の種です。なので、ファイブフォース分析によって自社の属する業界において、何が脅威になりうるのかを整理することがとても大切になってくるわkです。
戦略設計フレームワーク
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マトリックス)
PPMは、自社の事業の位置付けを整理する為のフレームワークです。具体的にいうと、「市場成長率」と「市場におけるシェア」の二軸で分けた4つのセグメント上で、自社の事業がどこにポジショニングされるかを整理するためのものですね。
マーケット内でのシェアの高い「花形」「金のなる木」に関しては好調な事業として捉えて良いですが、「問題児」に関しては「花形」を目指してテコ入れをする必要があります。中期的に市場拡大が見込める分野での新規事業などはここに分類されますね。
一方で、「負け犬」に関しては事業の撤退も含めて検討をすべきでしょう。もともとは成長が見込めていた市場だったものの、シェアを高められないうちに市場成長が鈍化して「負け犬」事業は生まれますが、会社としてもあまり投資のリターンが見込める状況ではありません。一般的には事業の売却・切り離しなどを考えることが多いでしょう。
4P
4P分析はマーケティング戦略の立案にあたって活用されるフレームワークです。Pを頭文字にもつ4つの要素を中心に、戦略の立案・妥当性を検討することができます。全社的な戦略でなくとも、個別のキャンペーン案件などでも活用可能ですね。Pはそれぞれ下記の通りとなります。
- Product = プロダクト:製品
- Price = プライス:価格
- Place = プレイス:流通
- Promotion = プロモーション:販売促進
「Place」だけちょっとわかりにくいので補足すると、製品をどういったチャネル(流通経路)を通して顧客に届けるか、という要素になります。これはエリアの話の場合もあれば、オンラインかオフラインか、という戦略も関係します。
4つのうち全てで競合に対して優位性を築くのはなかなか難しいので、どの要素に注力してマーケティング戦略を設計するかがポイントとなります。例えば「俺のフレンチ」だとプロダクト・プライス・プレイスが差別化ポイントと言えそうですね。立食(プレイス)という形式をとる(回転率を上げる)ことで、一流シェフの料理(プロダクト)を低価格(プライス)で提供できる…これが俺のフレンチのマーケティング戦略であり、成功の秘訣と言えます。
AIDMA
AIDMAは企業の戦略立案というよりは、消費者の行動プロセスを可視化したものなので、どちらかというとより細かい戦術上のマーケティングで使われることの多いフレームワークかもしれませんね。
AIDMAの各頭文字は上記の通り、消費者の購買プロセスが左から順に進んでいくことを表しています。
AIDMAは「古い」?
ただ、最近だと消費者の購買プロセスに変化が生まれており、必ずしもAIDMAには当てはまらない…と言われています。
上記は広告代理店の電通が提言したマーケティングモデルで、「AISAS」と呼ばれています。AIDMAと異なるのは「Search(検索)」と「Share(シェア)」の部分です。
PDCA
「意識高い大学生が言いがち」なイメージもあるPDCAですが、ビジネスマン個人にとっても企業にとっても、PDCAは最も重要なフレームワークといえます。戦略設計のフレームワークというか、戦略を中期的に推し進めるにあたって念頭に置くべきフレームワーク…というところですね。
頭文字はそれぞれ上記のとおり、その順番に沿って戦略を進めていくことが重要とされています。まず計画を立て(Plan)て実行(Do)、評価(Check)を行って改善をする(Action)…この一連の流れを繰り返すことが安定的な成長のために不可欠です。
僕自身は管理会計の仕事、つまり各部署の予算計画設計と、実際にどれくらい使わているのかを把握して分析する業務を担当していますので、PDCAでいうと「Plan」と「Check」が中心ですね。もちろん、分析した結果を改善につなげないと意味がないので、続く「Action」もとても重要です。
よくあるのはPlan・Doばかりで振り返りと改善を行わないケース。とにかくDoを積み重ねていくことはベンチャーなどでは非常に重要ではあるものの、Check・Actionも確実に行う体制を整備しないと安定的な成長には繋がりません。